プリオン


プリオンは生物ではありません.しかし,プリオンには伝染性の疾患をおこします.
プリオンは遅発性ウイルス感染症と呼ばれて、ウイルスの一種と考えれてきました.現在プリオンは感染性のあるタンパク粒子で,ウイルスとは別物であると考えれています。このプリオンによって起こる脳の変性疾患で伝播性海綿状脳症と称せられる疾患群をプリオン病と呼んでいます。 空胞変性がみられ、死亡した脳の乳剤を実験動物脳に接種するとまた発症死亡することから伝播性あると考えられ、この名称がついた.また、100nmの孔をもつフィルターを通過できることからウイルスではないかと考えられました.プリオン(prion)は、proteinaceous infectious particle [感染性蛋白粒子]から取られた名称です。

この病原体の発見のきっかけはパプアニューギニアのFore族で見られる小脳を中心とする奇病,クールーでした.GajdusekとGibbsはこのクールーとクロイツフェルト・ヤコブ病の一連の研究によりノーベル賞を得ています.1980年アメリカの神経学者Stanley Prusinerはクロイツフェルト-ヤコブ病のように脳が犯される原因不明のなぞの病気の原因がタンパク以外にはありえないことを見つけました.これに対する反論はすさまじいものでした.というのは,感染症であれば病原体は増殖しなければならず,そのためにはDNAもしくはRNAのようなゲノムが必要であるはずだというものでした.彼らは核酸を含まない純粋なタンパクだけで細胞抽出物をハムスターによってスクレイピーを起すことを見出しました.

このような病原体プリオンはウイルスと違って核酸がまったくみつかりません.また,ホルマリン,熱,紫外線に対してつよい抵抗性をもっています.したがって通常ウイルスとは区別され,非通常ウイルスと呼ばれていました.また,自己タンパクであるために免疫原性が極めて弱く免疫を起しにくい特徴があります. その数が危険なレベルまで達すると発症します.

ヒト 孤発性プリオン病 クールー パプアニューギニアの山岳地方の住民であるFore族の女性や子供を中心に見られた小脳性の歩行障害と振戦を特徴として、進行性に経過して発症後一年以内に死亡する疾患です。患者は発熱せず、炎症所見も示さず、病理学的には小脳を中心に海綿状変性・アストログリアの増生、アミロイド斑がみられます.Fore族では女性や子供が死んだ人の眼球や脳を食べる儀式(カルバニズム)があったこと、また人肉を食する習慣の消滅とともにこの疾病がなくなったことから、人肉を食べる習慣で発病したと考えられます。
クロイトヘルツ‐ヤコブ病(CJD) 世界各地で40-65歳の100万人につき約一人の頻度で見られます.痴呆やそれからくる痙攣を起こし,約一年で死亡します.これも脳に海綿状変性がみられます.硬膜移植で感染したものは医原性ヤコブ病と呼ばれています.
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD) ヨーロッパで最近100名以上が羅患したCJD類似の疾患.CVJより若い人が羅患しています.発症すると数週間から数ヶ月で100%死亡しています.96年に英国で発生がはじめて確認された.BSEとの関連が疑われています.
遺伝性性プリオン病 致死性家族性不眠症 CJDやBSEとは別の病気で,米国コロラド州とワイオミング州で1980年代でみつかりました.イタリア系一家における常染色体優性遺伝性プリオン病です.
ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS) 常染色体優性遺伝の家族性プリオン病.進行は古典型CJDに比べ遅いのが一般です.発症年齢は40ー60歳代ですが30歳代の発症もあります.
ヒツジ スクレーピー 柵に体をこすりつける(scrapie)ところから名づけられました.英国や西ヨーロッパで18世紀ごろから知られている羊の病気で,刺激過敏,振戦,後肢の脱力が生じ,数ヶ月~数年で死亡する病気です.日本でも,発病が確認されています.
ヤギ
ウシ牛海綿状脳症(BSE)狂牛病  15年前に英国で確認されたウシのプリオン病.狂牛病はメディアがつけたmad cow diseaseの和訳.正式にはウシ海綿状脳症[bovine spongiform encephalopathy: BSE]です.)症状はスクレーピーに類似しています.英国をはじめヨーロッパ各地で100万頭以上のウシが感染し,18万頭がBSEにより死亡しました.感染経路は英国では離乳期の仔牛に発育促進のために,ウシやヒツジの雑肉,骨などを飼料に混ぜる習慣があったためと考えられています.変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)との関連が疑われています. 日本では2001年9月に確認されています.
ネコ,トラ,ピューマ,チータ猫海綿状脳症

病気の違いにより病変部が異なる
病名 病変部
クロイツフェルト・ヤコブ病 大脳皮質
致死性家族性不眠症(FFI) 視床
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病 脳幹
クールー
ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)
小脳

正常プリオンが異常プリオンのもつ分子シャペロン効果により異常化する

タンパク質はアミノ酸が何十,何百と連なってできた長いヒモでできたいますが,これは伸びきった状態にあるのではなくて,正しく折りたたまれてはじめて正しい活性を示します.プリオンは正しく折りたたまれたていない異常なタンパクです.  プリオンはもともと中枢神経の正常細胞の第20番染色体の遺伝子産物で265個アミノ酸残基で構成され,その分子量が33,000~35,000の糖タンパク正常型PrPcとして細胞膜に結合して存在しています.PrPは通常誰の脳にもるものであり,無害であるが,これが生体内でどのような働きをしているかはまだ明らかにされていませんが,神経細胞の形を整えたり、神経の情報伝達に関わったりしているものと考えられてます.通常,正常プリオンが古くなると細胞内で分解され排除されていきます.通常でも,正常プリオンが異常プリオンになっていますが,極わずかなために自然に壊されてしまい病気になることはありません.

プリオン病で正常プリオンが異常プリオンになるのはPrPcの立体構造はαラセン構造3本存在するのにたいして,2本へと変化した変異型PrPscとなるためです. PrPscはPrPcに接触すると自己触媒的にPrPscへと立体構造を変化されるます.この反応が連続しておこり雪ダルマ式にPrPscが細胞内に蓄積され,アミロイド沈着や空胞ができ、海綿状になり、中枢神経障害を引き起こすと考えられています.BSEなど感染性のプリオン病では外部の異常プリオンが食餌を通して体内に持ち込まれておこります. 分子量33,000~35,000のPrPは正常細胞の動物にこのPrPを分解消失させる化学処理を行うとすべて消失するのですが,病変細胞をもつ動物に同じ処理を行うと分子量27,000~30,000のPrPが検出されることが明らかになりました.この病変が起こるとき,炎症反応は見られないのはPrPが自己の遺伝子産物であることに起因します.
異常プリオンは10万個も集まって結晶構造を作ります.一個一個の異常プリオンタンパクが正常プリオンを異常プリオンにするのではなくて,この結晶の一番端の2個だけが正常プリオンを異常プリオンにするという説もあります. PrPcが蛋白質分解酵素でこわれやすいのに対して、PrPscは蛋白質分解酵素にこわれにくいという特徴があります.これを利用して、検査材料中をプロテアーゼで処理し、残るPrPscを抗PrP抗体と反応させて検出する方式が用いられています.脳の組織標本にではプロテアーゼの代わりに蟻酸で処理をしてする方法を用いています.  このタンパク分解酵素Protease Kをもちいてタンパク分解性をウエスタンブロット法で検出すると異常プリオンが区別できるのです.


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