ウイルスが細胞に感染すると,生体の免疫機構が働いてウイルスを排除しようとする. ウイルスが感染しているが,生体の免疫機構によって防御され発症しない期間を潜伏期といいます. 一般に保有者が疲労や発熱などによる抵抗力が低下した際に発症する場合,これを潜伏感染といいます.
不顕性感染という概念には不明確な面があるが,ある条件下で発病しうる病原体と宿主との関係においてはっきりとした発病に至らないで経過する場合のものを指します. 不顕性感染は顕性感染からの連続的な現象である,病原体の種類によっては不顕性感染のほうがむしろ正常の姿で,臨床的は発病は例外と考えられるものもあります.
宿主側の遺伝的素因,肉体的条件,環境条件,感染量,感染ルート,その他いろいろ要因が不顕性感染の性ル津を左右します.
ウイルスが生体に侵入したとき,侵入部位で細胞の生体防御機能が働きます.この生体防御機構にウイルスが打ち勝って(もしくは免れて)細胞内で増殖をはじめます. ウイルスの増殖が一定の危険レベルを超えると様々な症状で出てきます.この感染から症状がでてくるまでの期間を潜伏期と呼びます.逆に生体防御機能がウイルスに打ち勝つとウイルスの増殖は阻止され,症状はでません.
不顕性感染をおこすウイルスはその宿主との間に平衡関係にあります.たとえば,ポリオウイルスはその感染で90%以上が無症状です.不顕性感染をおこすウイルスはその自然宿主との間の相互依存関係にある場合が多く,同じウイルスでも自然宿主とは異なる宿主に感染すると致命的な感染を引き起こす例はたくさんあります.たとえば,黄熱病ウイルスは旧世界サルには不顕性感染をおこしますが,ヒトには重篤なかん背印をおこし,新世界ザルには致命的です.
最初に感染する第一次標的組織(臓器)で症状の表れない前に,ウイルスの増殖を止めて排除した場合,これを不顕性感染といいます.不顕性感染の場合であってもウイルスが分離されることがあります.また,不顕性感染でも特異的免疫記憶が成立しますし,血中の抗体価も上昇するので,感染者に自覚症状が無い場合でも感染の既往があったことを知ることができます. 日本脳炎ウイルスやポリオウイルスは不顕性感染が多くのですが,発症率は低いのです. 日本脳炎ウイルスの場合,不顕性感染2000に対して顕性感染感染が1の割合であると言われています.EBウイルスの場合も前者がほとんどです.これに対して水痘は70%が顕性感染感染です. 顕性感染,不顕性感染のどちら科の経過を問わず,ウイルスが標的組織の細胞に潜伏し,長い間無症状でいる場合があり,これを潜伏感染といいます.潜伏していたウイルスが生態の抵抗力が弱まった時などに再発して,顕性感染となるような場合を回帰感染といいます. これは単純ヘルペスウイルス(1型,2型),水痘-帯状ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスに見られます.
また,ウイルスが感染してから長い期間をかけて徐々に進行的に症状が発症していき,やがて,致命的症状となる遅発性ウイルス感染症というものもあります.羊のスクレイピー,ミンクのミンク病,ヒトのクール,フィロイトフェルト-ヤコブ病などがそれで,いずれも同様な脳の軟化症状を表します.
母体ではサイトメガロウイルスや風疹の20-30%は不顕性感染であるといわれています.また,新生児ではサイトメガロウイルス感染症などは不顕性感染ですが,ヘルペスのように強く顕性であるものもあります.
不顕性感染になるか否かは,ウイルスの感染力の強さ,感染経路,また,宿主の感受性によって左右されます. サイトメガロウイルスやトキソプラズマ(原虫)やヘルペスウイルスなどはほとんどの場合不顕性感染です.また風疹ウイルスは20-30%が不顕性感染です. 麻疹ウイルスでは約20%がが不顕性感染です.
不顕性感染の頻度が高い感染症の場合,一般にヒトからヒトへの感染経路の追求が困難になる場合が多くあり,疫学上重要な意味をもっています. 不顕性感染者は病状の自覚がなく,通常の社会活動に支障無く参加できるので,感染源としての自覚があまりなく,危険な存在である場合があります. 不顕性感染では感染者の行動が制約無く伝播し,被感染者に直接知られることなく影響を及ぼしているという意味で重要な疫学上の課題といえます.