2004年8月30日更新
Top  

ボツリヌス菌 Clostridium botulinum


ボツリヌス中毒,毒素型食中毒,神経毒,発声障害,呼吸麻痺,偏性嫌気性菌,ソーセージ,瓶詰,缶詰,発酵食品,乳児ボツリヌス症
ボツリヌス菌はグラム陽性の大桿菌で、芽胞を形成し、酸素があると生育をまったくしない偏性嫌気性菌です。芽胞は土壌中、水中、動物の腸管内など多くの環境中に存在します。ボツリヌス菌はボツリヌス毒素と呼ばれる神経毒素を産生し、これによって神経症状を主症状とするボツリヌス症を起こします。毒素は単純タンパクで、抗原性の違いによりA~G型が存在し、菌の分類もこの毒素の型に準じます。すなわち、A型毒素を産生する菌はA型ボツリヌス菌と呼びます。  ヒトに対する中毒はA,B,E,F型毒素で起こっています。また、C,D型毒素はニワトリ,野鳥などの鳥類や牛や野生動物の中毒に関与しています。 ボツリヌス症には、(1)食中毒(食餌性ボツリヌス症)、(2)乳児ボツリヌス症、(3)創傷性ボツリヌス症、に分けられますが、大半は食中毒の場合です。

1)食中毒(ボツリヌス中毒、食餌性ボツリヌス症)

 ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が食品中で産生したボツリヌス毒素によっておこる神経症状を主張とする食中毒である、ボツリヌス毒素は酸に耐性があるので活性を失わず胃を通過します。しかし、易熱性であるため完全に加熱して食べる食品では中毒は起らず、加熱をしなかったり、不完全な加熱しかしない食品で起っています。
 またソーセージ、ハム、瓶詰、缶詰、発酵食品、真空包装食品など嫌気状態にある食品でおこります。食品中で毒素が産生された毒素を、食品とともに摂取することによっておこる典型的な食中毒です。大事な特徴は、はいずれの食品も加熱せずに食べることができるという点です。毒素は加熱によって完全に失活しますので、加熱を前提として食品ではボツリヌス中毒は起こりません。

ボツリヌス中毒は「腸詰」中毒としてヨーロッパで古くから知られていた

 ボツリヌス菌は嫌気性有芽胞菌で、食品中でボツリヌス毒素を産生し、食餌とともに毒素を摂食しておこる神経症状を主症状とする食中毒を起こす。ヨーロッパでは古くからソーセージやハムを食べてなる奇異な食中毒があることが知られていた.特にハム、ソーセージの製造、消費が多い南ドイツでは早くからこの疾患に気付いていた.`1870年、ミューラー博士はこれを、ボツリヌス(botulinus,ラテン語で「腸詰め」を意味するラテン語botulus)中毒と命名した。多くは缶詰,瓶詰,真空パックなどで加熱が不十分であると芽胞が生き残り,食品中で毒素を作り,これを加熱せずに摂食しておこります.国,地域によって原因食品にはバライティーがあり,ヨーロッパではハム・ソーセージなどの加工食品,アメリカではさらに野菜の瓶詰め,ロシアでは加工魚肉品などが主なものです.日本では大半が北海道、東北地方でのイズシやキリコミによるE型の中毒です.

症状

 潜伏期は5時間~3日で、多くは12~24時間で発症します.発症初期には悪心、嘔吐、時に腹痛,時には下痢などの胃腸障害に引き続いて視力低下、遠近調節障害、複視、散瞳、対光反射の遅延、眼前近距離での対象不鮮明、複視、眼瞼下垂、などの眼症状、また、発語障害、構音障害(しわがれ声)等の発声障害、嚥下障害,口渇等の球麻痺症状をおこし,その後進行すると便秘,尿閉,四肢の麻痺、腹部膨満、横隔膜麻痺による呼吸不全によって死亡します。致死率は20%程度といわれています。症状から、喉頭ガン、脳梗塞と診断されている場合もあり、早期の診断が重要で,抗毒素血清療法が可能です。治療に成功すると後遺症はありません.
ボツリヌス毒素を静脈注射されたマウスは
呼吸筋麻痺のため腹部を大きくへ込まします.

疫学

 ボツリヌス菌は土壌,水中などに芽胞として存在する細菌で,土壌,海水による食品の汚染によって起こると考えられています.またボツリヌス中毒の背景には,原因食品が加熱されずに食べる食品であることがあげられます.また,芽胞は耐熱性であるにもかかわらず,十分に加熱されずに保存された場合に芽胞の発芽と菌の増殖がおこったと考えられます.また,食品が嫌気的条件にさらされていたこと,また,菌の増殖に適した温度および中性付近のpH条件にあったことが挙げられます.少なくとも条件のうちどれか一点でも条件があわなければ菌の増殖はなかったでしょうし,毒素の産生もなかったはずです.したがって,確実な滅菌と菌の産生に不都合な条件(特に低いpHもしくは低い水分活性)に食品を保つことがボツリヌス中毒を防ぐ上でかかすことができません.

「腸詰」中毒とボツリヌス菌の発見
 ボツリヌス菌は嫌気性有芽胞菌で、食品中でボツリヌス毒素を産生し、食餌とともに毒素を摂食しておこる神経症状を主症状とする食中毒を起こします.ヨーロッパでは古くからソーセージやハムを食べてなる奇異な食中毒があることが知られていました.特にハム、ソーセージの製造、消費が多い南ドイツでは早くからこの疾患に気付いていました.`1870年、ミューラー博士はこれを、ボツリヌス(botulinus,ラテン語で「腸詰め=ソーセージ」を意味するラテン語botulus)中毒と命名しました.

ベルギーでは葬式には楽団が葬楽を演奏する伝統がありました.1895年12月、葬儀の34名の楽士が昼食をとりました。食事には塩漬けにしたハムが出されました。その翌日から、その大多数がボツリヌス中毒特有の麻痺を起こし、その内13名が重症となり、内3名が死亡しました.ヴァン・エルメンゲム博士はハムの残りと死亡者の脾臓から嫌気性有芽胞菌を分離し、この菌を詳細に調べ、この菌が恐ろしい毒素を産生するボツリヌス中毒の原因菌であることを突き止めボツリヌス菌と命名しました.

 ボツリヌス菌の発見当初からボツリヌス毒素は知られていました.ヴァン・エルメンゲム博士は、ボツリヌス菌は動物の体内で増殖しないが保存食品の中で増殖すること、毒素を産生すること、動物によって毒性が異なり、5分の煮沸によって毒素は破壊されること、毒素は酸に安定で、アルカリに不安定である等現在知られている毒素の基本性質をその当時既に報告しています.

日本でのボツリヌス中毒

 日本では戦後から現在までに400名を上回る患者がでており,死亡率は20%を上回っています.原因食のほとんどは北海道、東北地方でイズシ,キリコミで,また滋賀では郷土料理のハス寿司でE型の中毒が起こっています.これらナレズシで起こったボツリヌス中毒のほとんどすべては家庭で作った自家製のものです. これらはいずれもE型による中毒です.しかし最近は宮崎,東京,栃木などで輸入した瓶詰,缶詰ででA型やB型の中毒も起こっています。また熊本のカラシレンコンなど他の原因食品でもおこっています.
イズシ,手前がニシン,
後方がベニジャケで作ってある
キリコミ
芥子蓮根

2)乳児ボツリヌス症

生後6月未満の乳児に見られる疾患で経口摂取したボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が腸管内で毒素を産生しておこります。離乳食品内特に蜂蜜やコーンシロップ、床のホコリ、土などからA型、B型の芽胞が摂取され、主に大腸で増殖し、毒素を産生し、泣き声が弱々しい,哺乳力が弱い,頚部筋肉が緩みによる首の座りが悪くなるなどにはじまる中毒症状をおこします。致死率は3%程度です。

3)創傷ボツリヌス症

芽胞が傷口などから侵入し、体内で増殖、毒素を産生し、弛緩性麻痺を主症状とする中毒症をおこします.その感染形式は破傷風とほぼおなじでが,通常本菌の芽胞は細胞内では発芽増殖しないので大量に菌が入った場合にのみ起こると考えられます。アメリカにおいて麻薬常用者における路上に捨てられた注射器を用いた発生例が報告されています。

毒素

 ボツリヌス毒素はいずれの血清型の毒素も分子量150kDaの易熱性タンパクの神経毒と様々な数の無毒成分が結合しています。これをprogenitor toxinとよび,この無毒成分が胃液の酸性やタンパク分解酵素から神経毒を保護し、腸による吸収が促進されている考えられています。小腸から吸収された毒素は神経毒が単独となり腸管リンパから胸管を通り血流に乗ります.その後、血行性に神経組織に到達します。神経毒の作用点は筋神経接合部の前シナプスに作用し,アセチルコリンの遊離を抑制し,麻痺を起すと考えられています.

診断

診断は臨床症状、摂取した食品の調査のほか、菌の単離、マウスを用いたバイオアッセイ、酵素抗体法による毒素の証明によって毒素型を決定します。 治療は乳児ボツリヌス症以外は、抗毒素抗体投与が主体となります。
索引に戻る